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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)4088号 判決 1985年3月18日

原告 田中食品株式会社

右代表者代表取締役 田中耕輔

右訴訟代理人弁護士 緒方俊平

被告 藤六株式会社

右代表者代表取締役 藤井憲一郎

右訴訟代理人弁護士 野田雅

右訴訟復代理人弁護士 三木秀夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告

求める裁判

被告は原告に対し金一〇、〇七六、二二〇円とこれに対する本訴状送達の翌日以降支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言

請求の原因

一  原告は、「ふりかけ」等の食品を製造加工する会社であり、被告は、水産物等の売買等を業とする会社である。

二1  原告は、えびを原料とするふりかけを新たに発売することを計画した。

2  そして、原告は右計画を被告に説明をした。

3  原告は、被告に対して昭和五六年四月末より五月中旬までの間三回にわけて「小えび」の発注をした。

4  その結果、原告は、被告から

昭和五六年五月一日 一八kg×五八ケ=一〇四四kg

同年五月一八日 一八kg×一五〇ケ=二七〇〇kg

同年五月二一日 一八kg×一二〇ケ=二一六〇kg

計五九〇四kg

の三回にわけて「小えび」の納入を受けた。

5  原告は、右「小えび」の売買代金として昭和五六年五月三〇日に金八、〇三二、九二〇円全額支払った。

三  原告は、昭和五六年一〇月中頃、新たに完成した異物選別機の稼働を開始し、五、六ケースについてエビの選別にとりかかったが、砂の混入がはなはだしく、全く商品化できない事態が明らかとなり、この旨を被告に通知し、さらに、昭和五六年一二月に、広島大学生物生産学部と広島県食品工業試験場とにそれぞれ依頼して異物試験を行ったところ、いずれの結果も、食品に用いるのが困難なほど小石が多く含まれていることが明らかになった。

四  原告は、エビのエキスを採取して原料にするなら別として、エビそのものを原料にするには全く不完全な材料を被告が売りつけたものと判断し、これでは商品にならないので昭和五六年一二月二八日付内容証明郵便にて被告会社広島営業所に、同五七年一月一三日付にて同社本社に、それぞれ通知をし、商品の返品と原告の支払った売買代金の返還とを求めたが、さらに、被告の不完全履行を理由に本訴状で前記二記載の売買契約を解除する旨意思表示をする。

五  商品代金返還並びに解除に伴う損害

1  前記解除により、被告は原告に対し、原告の支払った金八、〇三二、九二〇円の代金返還義務がある。

2  原告は商品価値の無い原料のエビを倉庫に保管しているが、この保管料は次のとおりである。

昭和五六年五月分 金七一、四〇〇円

六月分 金六三、四〇〇円

七月分 金六三、四〇〇円

八月分 金六三、四〇〇円

九月分 金六三、四〇〇円

一〇月分 金六三、二〇〇円

一一月分 金六二、四〇〇円

一二月分 金六一、六〇〇円

昭和五七年一月分 金六一、〇〇〇円

二月分 金六〇、一〇〇円

計金六三三、三〇〇円

現在以上のとおり支払っているが、これは被告の債務不履行に伴う損害である。

8 原告は、被告からの納入材料が使用できないため、やむなく、他業者からエビを仕入れたが、その間の原材料の値上りがあり、1kg当り金六〇〇円の損害を被った。

尚、新規仕入状況は次のとおりである。

昭和五七年一月七日 一五〇kg 二九二、五〇〇円

一月二五日 二〇〇kg 三九〇、〇〇〇円

二月八日 五〇〇kg 九七五、〇〇〇円

二月一六日 五〇〇kg 九七五、〇〇〇円

三月五日 一〇〇〇kg 一、九五〇、〇〇〇円

計二、三五〇kg 四、五八二、五〇〇円

現在発生しているkg当りの差額は金六〇〇円となる。

二、三五〇kg×六〇〇円=一、四一〇、〇〇〇円

4  したがって、損害金額は合計一〇、〇七六、二二〇円となる。

六  よって、原告は被告に対し本件売買契約解除による損害賠償として金一、〇〇七万六二二〇円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

抗弁に対する答弁

原告が昭和五六年五月二九日に被告に一ケースを返品したことは認める。この一ケースについては小石の混入が正確な検査によらずしても判明し、その他のエビは目による観察と試食によっても異常が発見できなかったものである。

再抗弁

一  原告は被告に対して、本件エビを購入する際、昭和五六年一〇月より生産に着手し、その頃より選別を開始するので、それまでは、商品の品質についての全面的な確認、検査は留保する旨伝えていた。よって、原被告間において、本件商品の検査については、昭和五六年一〇月より開始する旨の合意が形成されていたものというべきであり、この点からも被告の主張は失当と言わねばならない。

二  本件エビの瑕疵は、エビの皮殻内に離脱不可能な砂が残るというものである。すなわち、本件エビの瑕疵の中味は、細かい砂粒をエビが抱いているような状態という事であり、単にエビと砂とが混在しているというような単純なものではない。一番大きな砂粒でも〇・一七ミリメートルであり、これは肉眼でも、又、試食でも、とても発見できるような瑕疵ではない。原告は、昭和五六年一〇月中頃、右瑕疵を発見し、同月末に被告担当者に対し状況を説明し商品の引取りを要求したものである。商法五二六条によれば、商品の瑕疵がただちに発見できない時は、六ヶ月内にこれを発見して直ちに通知すれば、請求権は失わない事となっている。本件の場合はまさにこれに該当するものであり、被告の主張は失当である。

三  本件エビを噛んで砂を確かめることができるような簡単な調査で砂の存在が判明するものであれば、被告も、また、親会社である東海澱粉株式から本件エビを買入れた当時、すでに砂が入っていることを知っていた筈であり、被告に悪意がある。

被告

求める裁判

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

答弁

一  請求の原因一の事実は認める。

二  同二の1の事実は不知、2の事実は否認する。3及び4の事実は認める。5については代金支払のため、昭和五六年七月二〇日期日、額面八、〇三二、九二〇円の手形を受け取ったことは認める。

三  同三の事実は不知。

四  同四のうち、原告主張のように返品及び代金の返還の請求があったことは認めるが、契約解除の点を除いてその余の事実を争う。

五  同五の事実は争う。

抗弁

一  本件売買は商人間の売買であるから、買主たる原告としては、目的物受領後遅滞なくこれを検査し、もし、瑕疵あること若しくは数量不足を発見したときは、直ちに完主たる被告にその通知をするのでなければ、契約解除若しくは代金の減額若しくは損害賠償の請求をすることができない(商法五二六条一項)。

二  本件においても、原告は昭和五六年五月二三日にえびの検査をし、二九日に被告に一ケース返品を行っている。

三  しかるに、本訴において原告が主張する商品の瑕疵については、被告は原告から売買後長期間何等の通知を受けることはなかったもので、原告の契約解除並びに損害賠償の請求は理由がない。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因一の事実、同二の3及び4の事実はいずれも当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、請求原因二1及び2の事実を認定することができ(る。)《証拠判断省略》

二  《証拠省略》によれば、

原告は昭和五六年一〇月中旬頃かねて製作中であった異物選別機が完成し、被告から購入したえびを選別機にかけたうえ、試食したところ、口の中でじゃりじゃりした状態であり、他の異物はとれたものの砂は選別されなかったので、一〇月末頃までに被告会社社員細田幹雄にこの旨を伝えたところ、同人は、会議にかけると言って砂の入ったサンプルを持って帰った。また、原告は同年一二月二一日に広島県食品工業試験場にえびの検査を依頼し、同試験場は五月一日、一八日、二一日の各三回買入分とも土砂様の異物がある旨を回答し、同じく一二月二二日に検査依頼を受けた広島大学笠原正五郎教授は細かい砂粒(最大約〇・一七ミリメートル)が含まれていることが明らかであるので食品に用いることは不適当と思われる旨を回答している。

ことが認められる。

そうすると、原告が被告から買受けたえびは砂様のものを含み、原告が目的とするえびふりかけとするには不適当であって、瑕疵があるものということができる。

三  被告の抗弁のうち、原告が昭和五六年五月二九日に被告に対し一ケースを返品したことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、右返品は原告において昭和五六年五月二三日頃えびふりかけの試作品を製造し、これを試食したところ、えびに砂が含まれていることが判明し、砂が多いとの理由でなされたが、その後、原告は他のえびにつき砂が含まれているかを検査することなく、したがって、えびの良否の通知を被告にすることもなく、同年一〇月に新選別機の完成をまってえびの検査をすることにし、一〇月末に至るまで何らの検査をもしなかった、しかし、原告は通常商品到着後二、三日以内に異物の存否につき、確認をしていたことが認められる。

本件売買は、原被告が商人であるから、商人間の売買であるところ、本件えびを買受けた原告は一ケースのみ砂を含んでいるとの理由をもってこれを被告に返却したのにすぎず、他のえびケースについては、瑕疵の有無につき最終の受領日である昭和五六年五月二一日以後遅滞なく検査し、ただちに被告に対して瑕疵ある旨の通知をしていなかったものということができる。

四  原告の再抗弁一に沿う《証拠省略》は、《証拠省略》に照らし、ただちに採用し難く、他に右再抗弁を認めるに足りる証拠はない。《証拠省略》によれば、原告側では昭和五六年一〇月の新異物選別機の完成をまち、これによって本件えびの選別をする予定であったのにすぎないことが認められ、また、《証拠省略》によっても、同じく、原告において徹底的なえびの検査をしなかったのは一〇月の新選別機の完成をまっていたことが認められるにすぎず、右再抗弁のように、商品受領後相当期間経過後の検査を被告において了承するものとは信じられないところである。

五  原告の再抗弁二は、つぎの理由により採用しない。

《証拠省略》によれば、えびに異物の砂が付着する形態には二種類があって、一はえびと砂が別々にあって混り合った状態であるが、これは選別機によって砂がとれるところ、本件のようにえびの腹の奥の方に小砂を抱きこむような形態である場合には選別機によって砂をとることは不可能であること、昭和五六年五月一日入荷分のえびについては原告側で到着日に食べてみたが、砂が入っていることは感じられなかったこと、五月二三日頃えび一一ケースをとり出し、商品検査用の試作品をつくるため手作業で選別をし、横佩らが試作品を食べたところ砂か何かがあるような感じがしたこと、しかし、本格的検査は一〇月の選別機の完成をまって行うことにしたこと、えびに含まれている小さい砂は、敏感な人が四、五匹食べると分ること、昭和五六年一〇月頃選別機でえびを選別し、ふりかけの試作品をつくり、原告社長が試食したところ、社長が一寸じゃりじゃりする、選別をしたのかと言い出し、原告工場ではじめてえびを磨潰して水に浮べ、沈下しているものを顕微鏡で見て砂があることを確認したことがそれぞれ認められる。

右事実によれば、本件えびに付着している砂は選別、すなわち、取りのぞくことが不可能なものであるけれども、これをもってただちに発見することができない瑕疵があったものということはできない。すなわち、原告側は、五月二三日頃試作品を食べることによってすでに砂がえびの中に含まれていることを知っており、また、一〇月に選別機によって選別したふりかけの試作品のえびに砂があることを原告社長が試食によって指摘しており、敏感な人であればえびの中に砂があることがわかるのであるから、原告のような職種の企業内にそれに相応する検査担当の人物が配置されているのが当然であり、本件えびの砂が原告にとってただちに発見することができない瑕疵であるとは到底いうことはできない。《証拠省略》によれば、異物が存するかどうかを検査する専門家は横佩巌であることが認められ、同人によれば、本件えびの砂については試食をすることによってただちに発見することが可能であったと思われるのに、横佩は証人として原告社長がふりかけ製造に長らく関係しているので舌が一番敏感であるというにとどまり、選別に関する自己の知識経験を述べないのは解せられないところである。

六  原告の再抗弁三を認めるに足りる証拠はなく、採用に値しない。

七  以上の次第で、原告は、本件えび受領後遅滞なく検査することを怠り、ただちに被告に対して瑕疵ある旨の通知をしていないのであるから、本件売買契約を解除し、代金の返還その他損害賠償を求めることは許されないものであることは、商法五二六条によって明らかである。

よって、原告の請求はその余の点につき判断をするまでもなく、失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小北陽三)

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